京都のリーマンメモリーズ

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【書評】日本製鉄の転生 上阪欣史 日経BP

今週のお題「小さい春みつけた」

春と言えば暖かいというイメージがありますが、熱闘している場所がありますね。それは、そう、甲子園です。春の選抜高校野球大会ですね。ここでは、日本の高校野球球児が頂点をかけて熱戦が繰り広げられます。春の甲子園が始まるといよいよ春です。熱闘と言えば炎。炎と言えば鉄ですね。鉄をつくる為には、かなりの高温で熱する必要があります。製鉄所はある意味、常に熱闘なのかも知れません。日本のモノづくりを支え、日本を代表する製鉄業界のリーダーで、大赤字から最高益に大転換した日本製鉄を紹介するというすんごい本を紹介します。

【1.本書の紹介】

日本製鉄という会社をご存知ですか?
 
新日本製鉄、通称、新日鉄なら皆さんご存知だと思います。
 
新日鉄が2012年に住友金属と経営統合し新日鉄住金に、2019年に日新製鋼を完全子会社化し「One Nippon Steel」の意味を込めて日本製鉄と社名変更しました。
 
2023年度見込み売り上げ9兆円、社員数約11万人の巨大企業です。
 
個人的には、IT系の企業に比べると鉄業界は、イノベーションの起きにくい業界だろうなと思っていましたので、あまり気に留めていませんでした。
 
大企業は、いわゆる大企業病から崩れ落ちてゆく企業が多いですが、新日鉄もあまりいい話がなかったので、もう時間の問題かもしれないと思っていました。
 
ところが、知らない間に、不死鳥のようによみがえりました。
 
よみがえった以上に、勢いがついて元気ハツラツになっています!
 
これはどうしたことでしょうか?
 
いったい、日本製鉄には何が起こったのでしょうか?
 

【2.本書のポイント】

橋本の製鉄所訪問回数は1年に30数回に及んだ。これは、どの歴代社長より多い。直接対話で課題をあぶり出し、利益につながる改革をやり切ってもらう。そんな覚悟の現れだった。
 
改革に邁進する日本製鉄は、薄利多売を避け、競争力が高い高級鋼を拡販する勝ち筋を描いていた。
 
橋本はシェアには目もくれなかった。販売動向が気にかからないと言えば嘘になる。それでも橋本は、「営業にシェアは一切聞かない」と自らを戒めた。
 
橋本は、「(顧客の購買担当者に)値上げを受け入れてもらえないなら供給はできない」と伝えて欲しいと指示したのだ。
 
値上げ受け入れを自動車メーカー側の社長マターにし、社長同士、同じ土俵の上に立つ狙いだった。価格の適正化が鉄鋼メーカーにとってどれだけ大事かを、わかってもらうための賭けだった。
 
日本製鉄は宝山とトヨタにそれぞれ約200億円の損害賠償を要求。さらに宝山の電磁鋼板を採用しているトヨタの電動車の製造・販売を差し止める仮処分を申請した。最大顧客であるトヨタを訴える━。日本製鉄がそんな強硬手段に出るのは極めて異例のことだ。
 
顧客至上主義の精神が、民間企業としての日本製鉄の競争力を阻む原因の1つだったのではないか。強気の価格交渉や最大顧客とも対峙した法定闘争は、そうした顧客至上主義から脱却する一歩でもあった。
 
安定した財務基盤と、市場環境に左右されない稼ぐ力。その両方を兼ね備えたのが今の日本製鉄と言える。
 
産業が爆発的に拡大する今のインドの姿は、かつての日本の高度成長期と重なる。その局面にあって、日本の国づくりを鉄作りで支えたDNAを持つ日本製鉄が、インドの基幹産業の請負人になろうとしているのだ。今の日本製鉄が描く「グローバル3.0」は、世界の成長国の国づくりを担うことなのかもしれない。
 
橋本の座右の銘は「事上磨錬」。中国民謡の思想家、王陽明が残した「行動や実践を通してしか知識や技能は磨かれず、人間の実力は身に付かないという意味の格言だ。
 
計画や手順ばかりが重視されると、人は指示待ちになり、相違工夫しなくなる。計画にとらわれると環境の変化や想定外の事態が起きても対応できず、思考も停止する。計画や評価が過剰になって行動が軽視され、本質をつかんでやり抜く野生が日本から失われつつある。(野中郁次郎)
 
上阪(著者):国内粗鋼生産能力、5000万トンを1000万トン削減すると言う号令をかけました。社内の反応はどうだったのでしょう?
橋本(社長):諸悪の根源は余剰能力です。それを削るには高炉から止めるしかない。それをわかってもらうため、国内製鉄事業だけの損益を取り出して、製鉄所に示しました。製鉄所では相当乱暴なことも言いました。「自分の給料を自分で稼いでいない。子供や孫に頼っている老人と一緒だ」と。
 
価格形成力を持てないと言うのは、営業以前の話です。事業の構造が間違っている。つまり、経営そのものに問題があるんです。だから、経営の諸悪の根源である余剰生産能力の改革から着手したわけです。
 
(製鉄所の合理化を進め)固定費はこれ以上下げられない。その中で従業員の賃金も戻さないといけない。(売り上げ額から変動費を引いた)限界利益を増やす必要があります。そのためには単価を上げるしかなかったのです。
 
1つだけこだわったKPI(重要業績評価指標)は何だったかと聞かれたら、私は「社員に支払っていた給与をどれだけ増やせたか」だと言うでしょう。
 

目次

第1章●自己否定から始まった改革 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃

第2章●「値上げなくして供給なし」 大口顧客と決死の価格交渉

第3章●異例のスピードで決断 インドで過去最大M&A

第4章●動き出すグローバル3.0 「鉄は国家なり」の請負人に

第5章●国内に巨額投資の覚悟 高級鋼で勝ち抜く「方程式」

第6章●脱炭素の「悪玉」論を払拭せよ 鉄づくりを抜本改革

第7章●「高炉を止めるな!」 八幡の防人が挑む改革後の難題

第8章●原料戦線異状あり 資源会社に巨額出資

第9章●橋本英二という男 野性と理性の間に

【3.本書の感想】

営業経験のある私からすると、天変地異のようなことが起きています。

 

私が営業をしていた頃も、お客様の言う事は絶対で、値上げをするなんてことは絶対に言えない事でした。

 

その為、家電に代表するように、高機能になりながら価格が上がらず、値段が下がっていく儲からない時代になってしまったと思います。

 

お客様は、自分たちを生かしてくれるからこそ神様でありますが、買い叩いて息の根を止めるようなお客様は神様じゃないですね。

 

どこからか、「お客様は神様です」が独り歩きしてしまったように感じます。

 

これが失われた30年と言われる日本の停滞期を、長引かせた大きな原因の一つかもしれません。

 

かたや今、いろんなところで値上げが行われていますね。

 

原料費高騰を原因とする値上げには、我々も食料品購入で実感しているところだと思います。

 

企業間でも、今まででは考えられなかったような値上げの交渉が行われています。

 

そして、春闘に向かい企業の大幅な賃上げも報道されています。

 

これが当たり前になると、いよいよデフレ脱却になると思います。

 

私個人的には、モノの値段が上がる以上に、給料がもっともっと上がる事を期待しています。(笑)

 

日本は、コスパを求めすぎて、安さをベースにし過ぎたと思います。

 

価値あるモノやサービスを販売することに、もっと自信を持っていくべきだと思います。

 

この本は、大企業のどん底からの復活劇を味わいたい人、自社の業績を回復させたい人、企業人としての情熱を失いかけている人、経営のあるべき姿を確かめたい人にお勧めです。

 

ノンフィクションで感動できる数少ない本です。是非、読んでみてください!

日本製鉄の転生 

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