京都のリーマンメモリーズ

京都で働くサラリーマンです。東寺や書籍の紹介をします。

【書評】奇跡の社会科学  中野剛志  PHP 新書


今週のお題「あまい」

ダイエットのために、甘いモノを一切控えていた時期がありました。最近は、ブラックコーヒーのお供に、チョコレートなど甘いモノを食べています。甘いモノとコーヒーがなかなか合うんですよね。苦い抹茶に甘い和菓子を食べるように、一見正反対のものが、奇跡の融合を生み出すことがありますね。今回は、奇跡の社会科学という、現代社会問題の解決策が、既に出ていた事を教えてくれるすんごい本を紹介します。(笑)

 

【1.本書の紹介】

社会科学というと、とっつきにくい感じがしますね。

 

研究の先は、人間や社会であり、人間がどう行動するのかということを研究していますので、古い本であっても、人間の変わらない本質を言い当てていることが多々あります。

 

日本の失われた30年と言われますがその停滞の理由や、ロシアのウクライナ侵略の理由など、どうしてそうなったのか?その答えが、なんと、過去の文献に書いてあるそうです。

 

さて、私たちは、過去の文献をどう読み解けばよいのでしょうか?

【2.本書のポイント】

社会科学の場合は、現代の世界を理解するために、100年前、200年前、場合によっては 400年前に書かれた 古典を読み返す必要があります。というのも、どうも 社会科学は、自然科学のように進歩するものではないようなのです。

 

社会科学の古典というものは、いつまでもその輝きを失うことがありません。不滅なのです。

 

人間というものは、厳格に規則に従って仕事をしているうちに、規則に従うことそれ自体が自己目的化するようなことが 往々にしてあります。

 

ウェーバーは、官僚制の問題点として、非人間的であることを挙げましたが、リッツァも、マクドナルド化は、反人間的あるいは脱人間的 システムになる傾向にある と指摘しています。

 

グローバル化と官僚制化とは同じことなのです。

 

業績を数値で測定しようとすると、測定基準の策定 や、実際の 測定・集計の作業に膨大な時間や費用あるいは人手がかかります。結果として、組織は、非効率になります。

 

バークが革命とか抜本的改革とかに反対したのは、人間の理性というものが不完全であるからという、その一点に尽きます。

 

日本が衰退したのは、抜本的改革を行ったからではありません。その反対に、抜本的改革をやりまくったからなのです。

 

前例のないことを試すのは、実は気楽なのだ。

 

社会は複雑であるのに対し、人間の能力には限界があって、社会の複雑さを十分に理解できない。ということは、実際には、重要な機能があるのかもしれない。従って、制度 全体を壊さないように、慎重に修正した方が良い問題が複雑で理性に限界がある以上は、この「まわり道」 のアプローチの方が確かに適切でしょう。

 

アメリカは人々が選択の自由を有することを望んでいる。ただし、それはアメリカ的なやり方を選択する場合に限ってだが。

 

日本が、アメリカの民主政治を見習うほどに、社会の同調圧力が高まり、自由が損なわれていくというわけです。

 

利己主義であるということは、孤独だということです。平等な社会では、人々は、孤独になるということです。 社会関係資本、つまり 人々の繋がりや 絆があった方が、社会がより豊かになるという、経済学の市場原理とは異なる結果を示す実証実験が数多くあるのです。

 

シリコンバレーで成功したイノベーティブな起業家たちは、自分の力だけで成功できる強くて孤独な子でもなければ、利己主義者でもなく、地域のコミュニティ や友人との絆を大切にする人達だったのです。

 

従業員や取引先など 家族以外のものを信頼できる社会、つまり社会関係資本が豊かな社会を「高信頼社会」とよび、高信頼社会の方が経済的に成功していると主張しました。

 

市場は、自らを機能させるために、自然環境や社会環境を破壊し、自然や人間を単なる「商品」にしてしまったのです。

 

組合組織や政府による規制は、まさに市場が人間や自然を「商品」化するのを防ぐ「社会防衛」だからです。

 

人間が自殺に向かわないよう引き止めているのは、宗教と言う「社会」だった。

 

人は、社会との絆に結ばれているから、自ら破滅に向かうことがないのだ。

 

大人の文明人が活動する目的、生きる目的である宗教的、道徳的、政治的信念は、社会によって形成されたものなのです。言ってみれば、個人の中に社会が入っているわけです。

 

この30年間の日本の停滞は、社会科学に対するはなはだしい無知がもたらしたものと言わざるを得ないでしょう。

 

NATO の拡大は、ポスト冷戦時代 全体を通じて、アメリカの政策の最も致命的な過ちとなる(ジョージケナン)

 

ユートピア の実現を目指して行動し、リアリティの壁にぶつかって失敗する。リベラリズムを目指した政治を行って、リベラルでない結果を招く。それを繰り返すのが国際政治というものなのかもしれません。

 

【目次】

第1講 なぜ組織改革は失敗するのか―マックス・ウェーバー
第2講 効率性の追求が非効率を生む―マックス・ウェーバー
第3講 数値だけで測定できない価値―マックス・ウェーバー
第4講 急がば回れ―エドマンド・バーク
第5講 漸変主義こそ、実は近道―エドマンド・バーク
第6講 民主政治の怖さ―アレクシス・ド・トクヴィル
第7講 平等が進むほど全体主義化する―アレクシス・ド・トクヴィル
第8講 人々の絆が社会を豊かにする―アレクシス・ド・トクヴィル
第9講 新しい資本主義―カール・ポランニー
第10講 新自由主義と「社会防衛の原理」―カール・ポランニー
第11講 自殺はどうすれば防げるのか―エミール・デュルケーム
第12講 突然の社会変化が自殺を減らす―エミール・デュルケーム
第13講 どうして戦争は起こるのか―E・H・カー
第14講ロシアがウクライナを侵攻したわけ―E・H・カー
第15講 「軍事力」「経済力」「意見を支配する力」―E・H・カー
第16講 どうして臨機応変に行動できないのか―ニコロ・マキャベリ
第17講 人はどのようにして必然的に破滅するか―ニコロ・マキャベリ
第18講 世の中、何が起きるか分からないから…―ジョン・メイナード・ケインズ
第19講 いったい経済学はどうなってしまったのか?―ジョン・メイナード・ケインズ

第20講 社会科学の古典は活きている

【3.本書の感想】

歴史は繰り返す。

 

こんな言葉を思い出しました。

 

歴史は繰り返すので、歴史をよく学べば、これから先のことも予想できるという考え方です。

 

社会科学というのは、古典の中にも名著があり、それを学ぶことで、やるべき事、やっていはいけないことがきちん理解できます。

 

しかし、社会の体制が苦しくなると、セオリー通りには行わず、違うやり方を目指して行動し、結局苦しいままだという事が繰り返されています。

 

例えば民主化は、誰もが自由で、幸せになると思っていたら、実は個人的には自由になり過ぎて、人とのつながりもなくなり不幸になったりすることがあります。

 

今までの日本は、保守的だから新しくするべだという風潮があったと思いますが、社会科学によると、刷新するのではなく、徐々に変えて行くのが良いみたいです。

 

言われてみれば、日本は長い歴史の中で、築き上げてきた文化や社会があり、それなりにうまくやってきました。

 

実は、米国のマネをすればするほど、不幸になってしまうかもしれません。

 

意外にも最近は、昭和の働き方が見直されているところがあります。

 

人間は社会的動物なので、人とのつながりが大切です。

 

それなのに、個人のプライバシーを尊重し過ぎて、職場の人のプライベートを何も知らないというような状態は、力を合わせて仕事をする上では、やはりおかしいを思うべきなのでしょう。

 

今の社会がどうして、こんな状態になっているのかをもっと知りたい方、社会科学の入門書をお探しの方、教養書を探している経営者の方にはとても良い本です。是非ご覧ください!

 

<

奇跡の社会科学

 

【4.関連書籍の紹介】

 

教養を蓄えると人生が楽しくなります。

www.fukuikeita21.com

最後までのお付き合いありがとうございました!